工夫が必要な展開【数学基礎】

工夫が必要な展開【数学基礎】

2024年12月14日

置き換えの利用

今回は、ちょっとした工夫が可能な展開を解説します。基本的な展開公式は覚えているものとして話を進めます。もし展開公式に不安があれば、先に以下の記事をご覧ください。

2次式と3次式の展開公式を紹介します。簡単な証明の仕方についても解説します。また、展開の公式を使った練習問題も用意しています。
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今回は例題メインで解説していきます。さっそく最初の例題からやっていきましょう。この例題は、置き換えを利用することで展開が簡単になる例です。

例題1

以下の式を展開してください。

\((1) \quad (a+b+c)^{2}\)

\((2) \quad (x^{2}+2x+3)(x^{2}+2x-5)\)

\((3) \quad (2x-y-5z)(2x+y+5z)\)

解答・解説

\((1)\)

\((a+b+c)(a+b+c)\) に分配法則を適用して展開することもできますが、ここでは置き換えを利用して展開します。もちろん、そのほうが楽に展開できるからです。

\(t=b+c\) とおくと、

\[(a+b+c)^{2} = (a+t)^{2}\]

となるので、展開公式の \((a+b)^{2}=a^{2}+2ab+b^{2}\) を使うことができます。計算すると、

\[(a+t)^{2} = a^{2}+2at+t^{2}\]

となります。ここで、\(t=b+c\) を戻すと、

\[a^{2}+2at+t^{2} = a^{2}+2a(b+c)+(b+c)^{2}\]

となります。あとは \(2a(b+c)\) と \((b+c)^{2}\) をそれぞれ展開して整理するだけです。

\begin{align}
&a^{2}+2a(b+c)+(b+c)^{2} \\[.5em]
&= a^{2}+2ab+2ac+b^{2}+2bc+c^{2} \\[.5em]
&= a^{2}+b^{2}+c^{2}+2ab+2bc+2ca
\end{align}

最後は \(ab, \ bc, \ ca\) という順に並べました。このような式はこの順番(輪環の順という)に整理することが多いので、覚えておきましょう。

なお、この展開は頻繁に登場するので、公式として覚えておくことをおすすめします。

展開公式

\((a+b+c)^{2}=a^{2}+b^{2}+c^{2}+2ab+2bc+2ca\)

\((2)\)

式をよく見ると、同じものが繰り返し出てきていることがわかります。ここでは、\(x^{2}+2x\) が2回出てきているので、\(t=x^{2}+2x\) とおくと、

\[(x^{2}+2x+3)(x^{2}+2x-5) = (t+3)(t-5)\]

となります。そうすると、展開公式の \((x+a)(x+b)=x^{2}+(a+b)x+ab\) を使うことができます。計算すると、

\[(t+3)(t-5) = t^{2}-2t-15\]

となります。ここで、\(t=x^{2}+2x\) を戻すと、

\[t^{2}-2t-15=(x^{2}+2x)^{2}-2(x^{2}+2x)-15\]

となります。あとは \((x^{2}+2x)^{2}\) と \(-2(x^{2}+2x)\) をそれぞれ展開して整理するだけです。

\begin{align}
&(x^{2}+2x)^{2}-2(x^{2}+2x)-15 \\[.5em]
&= (x^{2})^{2}+2 \cdot x^{2} \cdot 2x+(2x)^{2}-2x^{2}-4x-15 \\[.5em]
&= x^{4}+4x^{3}+4x^{2}-2x^{2}-4x-15 \\[.5em]
&= x^{4}+4x^{3}+2x^{2}-4x-15
\end{align}

\((3)\)

ぱっと見て、どこを置き換えればよいか分からないかもしれません。そこで、この式を

\[(2x-y-5z)(2x+y+5z) = \{ 2x-(y+5z) \} (2x+y+5z)\]

と変形してみます。そうすると、どこを置き換えればよいか気づくことができるでしょう。

\(t=y+5z\) とおくと、

\[\{ 2x-(y+5z) \} (2x+y+5z) = (2x-t)(2x+t)\]

となります。そうすると、展開公式の \((a+b)(a-b)=a^{2}-b^{2}\) を使うことができます。計算すると、

\[(2x-t)(2x+t) = 4x^{2}-t^{2}\]

となります。ここで、\(t=y+5z\) を戻すと、

\[4x^{2}-t^{2} = 4x^{2}-(y+5z)^{2}\]

となります。あとは \((y+5z)^{2}\) を展開して整理するだけです。

\begin{eqnarray}
4x^{2}-(y+5z)^{2} &=& 4x^{2}-(y^{2}+10yz+25z^{2}) \\[.5em]
&=& 4x^{2}-y^{2}-10yz-25z^{2}
\end{eqnarray}

\((y+5z)^{2}\) の前にマイナスが付いているので、符号に注意してください。

置き換えを利用した展開のやり方は理解できましたか?繰り返し出てくるものを適当な文字でおいて、展開公式を使えるようにすることがポイントです。

置き換えの利用

順序・組み合わせの工夫

次に、計算の順序や組み合わせの工夫が可能な展開をみていきましょう。

例題2

以下の式を展開してください。

\((1) \quad (a^{2}+b^{2})(a+b)(a-b)\)

\((2) \quad (x+1)^{2}(x-1)^{2}\)

\((3) \quad (x+1)(x-3)(x^{2}-x+1)(x^{2}+3x+9)\)

解答・解説

\((1)\)

\((a+b)(a-b)\) から展開してみましょう。すると、

\[(a^{2}+b^{2})(a+b)(a-b) = (a^{2}+b^{2})(a^{2}-b^{2})\]

となります。あとは残りの展開を行うだけです。

\begin{eqnarray}
(a^{2}+b^{2})(a^{2}-b^{2}) &=& (a^{2})^{2}-(b^{2})^{2} \\[.5em]
&=& a^{4}-b^{4}
\end{eqnarray}

もちろん、\((a^{2}+b^{2})(a+b)\) から展開しても計算結果は同じですが、分配法則を使って展開しなければならず、計算量も多くなります。一方、\((a+b)(a-b)\) から展開すると、展開公式を利用することができ、計算量も少なくすみます。

\((2)\)

\((x+1)^{2}\) や \((x-1)^{2}\) から展開したくなりますが、ここでは指数法則を利用して式を以下のように変形してみます。

\[(x+1)^{2}(x-1)^{2} = \{ (x+1)(x-1) \}^{2}\]

すると、\((x+1)(x-1)\) を展開できるようになります。実際に展開すると、

\[\{ (x+1)(x-1) \}^{2} = (x^{2}-1)^{2}\]

となります。あとは残りの展開を行うだけです。

\begin{eqnarray}
(x^{2}-1)^{2} &=& (x^{2})^{2}-2x^{2} \cdot 1+1^{2} \\[.5em]
&=& x^{4}-2x^{2}+1
\end{eqnarray}

もし \((x+1)^{2}\) や \((x-1)^{2}\) から展開すると、3項×3項の展開を行う必要があり、計算量が多くなります。ぜひ一度、\((x+1)^{2}\) や \((x-1)^{2}\) から展開する方法で計算してみてください。計算の順序を考える重要性が理解できるはずです。

\((3)\)

3次式の展開公式 \((a+b)(a^{2}-ab+b^{2}) = a^{3}+b^{3}\) や \((a-b)(a^{2}+ab+b^{2}) = a^{3}-b^{3}\) が使えるように、計算する組み合わせを工夫します。

\((x+1)\) と \((x^{2}-x+1)\) 、\((x-3)\) と \((x^{2}+3x+9)\) をそれぞれ組み合わせて展開すると、

\begin{eqnarray}
(x+1)(x-3)(x^{2}-x+1)(x^{2}+3x+9) &=& (x+1)(x^{2}-x+1)(x-3)(x^{2}+3x+9) \\[.5em]
&=& (x^{3}+1)(x^{3}-27)
\end{eqnarray}

となります。あとは残りの展開を行いましょう。

\begin{eqnarray}
(x^{3}+1)(x^{3}-27) &=& (x^{3})^{2}+(1-27)x^{3}+1 \cdot (-27) \\[.5em]
&=& x^{6}-26x^{3}-27
\end{eqnarray}

順序や組み合わせの工夫も、なるべく展開公式を使うことができるように工夫することが重要です。

順序・組み合わせの工夫

練習問題

問題

以下の式を展開してください。

\((1) \quad (2x-3y+z)^{2}\)

\((2) \quad (x+2)(2x^{2}+1)(x-2)\)

\((3) \quad (x^{2}+3x+1)(x^{2}-2x+1)\)

\((4) \quad (2x-1)^{3}(2x+1)^{3}\)

\((5) \quad (x+1)(x+2)(x+3)(x+4)\)

解答・解説

\((1)\)

\(t=2x-3y\) とおくと、

\begin{eqnarray}
(2x-3y+z)^{2} &=& (t+z)^{2} \\[.5em]
&=& t^{2}+2tz+z^{2}
\end{eqnarray}

となります。あとは \(t=2x-3y\) を戻して計算すると、

\begin{eqnarray}
t^{2}+2tz+z^{2} &=& (2x-3y)^{2}+2z(2x-3y)+z^{2} \\[.5em]
&=& 4x^{2}-12xy+9y^{2}+4zx-6yz+z^{2} \\[.5em]
&=& 4x^{2}+9y^{2}+z^{2}-12xy-6yz+4zx
\end{eqnarray}

となります。

別解

例題1で紹介した公式 \((a+b+c)^{2}=a^{2}+b^{2}+c^{2}+2ab+2bc+2ca\) を用いると、

\begin{align}
&(2x-3y+z)^{2} \\[.5em]
&= (2x)^{2}+(-3y)^{2}+z^{2}+2 \cdot 2x \cdot (-3y)+2 \cdot (-3y) \cdot z+2 \cdot z \cdot 2x \\[.5em]
&= 4x^{2}+9y^{2}+z^{2}-12xy-6yz+4zx
\end{align}

と計算できます。

\((2)\)

\((x+2)(x-2)\) から展開します。

\begin{eqnarray}
(x+2)(2x^{2}+1)(x-2) &=& (x+2)(x-2)(2x^{2}+1) \\[.5em]
&=& (x^{2}-4)(2x^{2}+1)
\end{eqnarray}

あとは展開公式 \((ax+b)(cx+d)=acx^{2}+(ad+bc)x+bd\) を使って計算します。ここでは \(x\) が \(x^{2}\) となっていることに注意しましょう。

\begin{eqnarray}
(x^{2}-4)(2x^{2}+1) &=& 1 \cdot 2 \cdot (x^{2})^{2}+(1 \cdot 1+(-4) \cdot 2)x^{2}+(-4) \cdot 1 \\[.5em]
&=& 2x^{4}-7x^{2}-4
\end{eqnarray}

\((3)\)

一見して分かりにくいかもしれませんが、\(x^{2}+1\) が繰り返し出てきています。そこで、\(t=x^{2}+1\) とおくと、

\begin{eqnarray}
(x^{2}+3x+1)(x^{2}-2x+1) &=& (x^{2}+1+3x)(x^{2}+1-2x) \\[.5em]
&=& (t+3x)(t-2x) \\[.5em]
&=& t^{2}+(3x-2x)t+3x \cdot (-2x) \\[.5em]
&=& t^{2}+tx-6x^{2}
\end{eqnarray}

と展開できます。あとは \(t=x^{2}+1\) を戻して計算すると、

\begin{eqnarray}
t^{2}+tx-6x^{2} &=& (x^{2}+1)^{2}+(x^{2}+1)x-6x^{2} \\[.5em]
&=& (x^{2})^{2}+2 \cdot 1 \cdot x^{2}+1^{2}+x^{3}+x-6x^{2} \\[.5em]
&=& x^{4}+2x^{2}+1+x^{3}+x-6x^{2} \\[.5em]
&=& x^{4}+x^{3}-4x^{2}+x+1
\end{eqnarray}

となります。

\((4)\)

\((2x-1)^{3}\) や \((2x+1)^{3}\) から展開するのではなく、まずは以下のように指数法則を利用して式を変形します。

\[(2x-1)^{3}(2x+1)^{3} = \{(2x-1)(2x+1)\}^{3}\]

次に、\((2x-1)(2x+1)\) を展開すると、

\[\{(2x-1)(2x+1)\}^{3} = (4x^{2}-1)^{3}\]

となります。あとは3次式の展開公式を使って展開すると、

\begin{align}
&(4x^{2}-1)^{3} \\[.5em]
&=(4x^{2})^{3}-3 \cdot (4x^{2})^{2} \cdot 1+3 \cdot 4x^{2} \cdot 1^{2}-1^{3} \\[.5em]
&=64x^{6}-48x^{4}+12x^{2}-1
\end{align}

となります。

\((5)\)

展開公式 \((x+a)(x+b)=x^{2}+(a+b)x+ab\) が使えそうですが、計算の組み合わせを考えないと計算量が多くなってしまいます。

そこで、定数項どうしを足したり掛けたりしたときに、同じ数字が出てこないか確認してみます。すると、\(1+4=5, \ 2+3=5\) となって、同じ数字が出てくることがわかります。

よって、\((x+1)\) と \((x+4)\)、\((x+2)\) と \((x+3)\) をそれぞれ組み合わせて計算します。

\begin{eqnarray}
(x+1)(x+2)(x+3)(x+4) &=& (x+1)(x+4)(x+2)(x+3) \\[.5em]
&=& (x^{2}+5x+4)(x^{2}+5x+6)
\end{eqnarray}

そうすると、\(x^{2}+5x\) が繰り返し出てくるので、置き換えを利用して計算できそうです。

これまで通り \(t=x^{2}+5x\) とおいて計算しても良いのですが、ここでは文字で置き換えずに直接計算を進める方法を試してみます。\(x^{2}+5x\) をひとまとまりとみて計算することがポイントです。

\begin{eqnarray}
(x^{2}+5x+4)(x^{2}+5x+6) &=& (x^{2}+5x)^{2}+(4+6)(x^{2}+5x)+4 \cdot 6 \\[.5em]
&=& (x^{2}+5x)^{2}+10(x^{2}+5x)+24 \\[.5em]
&=& (x^{2})^{2}+2 \cdot x^{2} \cdot 5x+(5x)^{2}+10x^{2}+50x+24 \\[.5em]
&=& x^{4}+10x^{3}+25x^{2}+10x^{2}+50x+24 \\[.5em]
&=& x^{4}+10x^{3}+35x^{2}+50x+24
\end{eqnarray}

このように、文字で置き換えなくても計算ができます。慣れてきたら、ぜひこのように計算してください。

最後の問題は、計算の組み合わせと置き換えを両方考える必要がある問題でした。


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